本物が集う街、
尾道に誕生した
スペシャルティコーヒー専門店
店主と尾道の出会い
初めて尾道を訪れたのはもう何年も前のこと。観光客だった私が目にしたのは、ノスタルジックな雰囲気が漂う街並みを楽しそうに行き交う人たちの姿でした。 その光景の一部分になれたような気がして、なんだか心が弾んだことを今でも覚えています。
もちろん当時、この街に自分の店を持つようになるとは想像もしませんでしたが、尾道を思い出すたび幸せな気持ちになったものです。
珈琲豆屋を生業にしようと思ったのは、自分が魅力を感じることに情熱を注ぎたかったから。
学生の頃から珈琲が好きだった私は、思い切って仕事に区切りを付け、焙煎の世界に足を踏み入れました。
新たな居場所は新鮮で刺激的。次第にのめり込んでいった私は、いつしか自分の店を構えたいと思うようになりました。
そんなとき再び訪れた尾道。 ただそこに居るだけで心が華やぐこの街のほかに、人生の第二幕をスタートする場所は考えられませんでした。中でも、尾道水道を挟んだ対岸にある向島はゆったりとした時間が流れ、人の暮らしを間近に感じられる島。不思議なことに、そこで珈琲豆屋を営む自分の姿を想像することができました。
そして2017年12月、尾道の向島に「珈琲豆ましろ」を開店。この街での私の暮らしも始まりました。
コーヒーが似合う街、尾道。
尾道はその昔、文豪、林芙美子が青春期を過ごし、志賀直哉が代表作「暗夜行路」を構想した街として有名です。また、大林宣彦、小津安二郎などの映画監督がフイルムを回し、数々の名作も生まれました。この街には文学や芸術を育む礎がある、と言っていいのかもしれません。
商店街から続く細い路地、山手に幾すじも伸びる坂道、そこからひょっこりと顔を出す猫。目にする光景すべてが叙情的なこの街には、古くからの喫茶店も点在しています。
磨りガラスがはめ込まれた木製のドアを開けると聞こえるチリンチリンと鳴るドアベル、マスターの「いらっしゃい」の声。ビロード調の布張りのソファーには、常連客が新聞片手に珈琲を嗜む姿。「レトロ」という言葉がよく似合う喫茶店の風景は、この街にとっての日常です。
暮らしの中に珈琲がある。
尾道で「珈琲豆ましろ」を開きたいと感じた理由はそこにあります。私にとって一杯の珈琲は、日々の営みに寄り添い、心安らぐひとときをもたらすもの。珈琲を愛し、珈琲に愛されるこの街に惹かれたのは、必然だったのかもしれません。
この街にはスペシャルティコーヒーが欠かせない
かつて私もその一人だったように、尾道には多くの観光客が訪れます。喫茶店でゆっくりと珈琲を味わう人、テイクアウトの珈琲を手に散策する人など、この街のいたるところに珈琲を楽しむ姿があります。
ただ私にとって、珈琲は日々の営みに寄り添うもの。旅先だけではなく、日常に戻り、旅の思い出に浸るときにも楽しんでほしい。この街から持ち帰った珈琲を飲みながら、出会った風景や語り合った人たちとの時間に思いを馳せてほしい。
ましろの珈琲豆でそのお手伝いができれば、これほど嬉しいことはありません。喫茶店でもカフェでもなく珈琲豆屋にこだわったのは、そんな思いからです。
ましろで取り扱っている珈琲豆はすべて、生産者によって丁寧に育てられたスペシャルティコーヒー。
この街を思い飲んでいただきたい珈琲だからこそ、クオリティの確かな豆を厳選しています。
味、香り、風味、どれをとっても個性豊かなスペシャルティコーヒーは、尾道の思い出をさらに色濃くするはずです。
尾道をスペシャルティコーヒーで盛り上げる
少し話を戻しますが、私が初めてこの街を訪れたとき、こんなエピソードがありました。
ゴールデンウィーク真っ只中、観光客で溢れかえる尾道は、駐車場の前にも長蛇の列。車の中で困っていた私に声を掛けてきたのは、近所の床屋の店主でした。
「うちの店の駐車場に停めんさい。ついでに自転車も貸すから、しまなみ海道でも走っといで」
その人懐っこさと、心根の優しさ。この出来事は一瞬にして私をこの街の虜にし、今でも、私と尾道を結びつける要になっている気がします。珈琲豆屋として街の住人になった私が、いつか珈琲を通して尾道のすばらしさを多くの人に伝えたいと思うようになったのも、間違いなくこのときの出来事がきっかけです。
尾道の猫をモチーフにしたダンク式の「ゆるねこむかいしまコーヒー」、向島の中学生にパッケージイラストを描いてもらった「向島中美術部コーヒー」は、その思いを形にしたものです。私が大好きな尾道をこれらの珈琲を楽しみながら思い浮かべてほしい。なによりそこに暮らす人たちの温かさを感じてほしいと。
一杯の珈琲は人を笑顔にできる、幸せにできる。私はそう信じています。ましろの珈琲が、皆さんとこの街を、皆さんとこの街の人とを繋ぐ架け橋になればと願っています。
本物が集う街に誕生した、スペシャルティコーヒー専門店
珈琲豆ましろでは、アフリカや中南米、アジアなどで栽培されたスペシャルティコーヒーをラインナップしています。一つひとつに際立つ個性を感じていただけますが、この街を思い浮かべながら飲んでいただくのなら、「ましろ」「むかいしま」「せとうち」と名付けた3種類のブレンドをおすすめします。使用する豆やそれらの組み合わせ、焙煎の具合などによって、甘味、酸味、苦味など、それぞれの違いを感じていただけるはずです。ぜひお好きな場所で、お好きな時間に、できれば大切な人と一緒に味わっていただければ嬉しいです。
ドリップとは違う楽しみ方をしたい方には、ダンク式コーヒーバッグや水出しコーヒー、カフェオレベースもご用意しています。
珈琲の楽しみ方は人それぞれ。
矛盾するようですが、スペシャルティコーヒーが一番だなんてナンセンスです。
珈琲は人を笑顔に、幸せにするもの。そして人と街を、人と人とを繋ぐものです。楽しみ方にルールはありません。大切なのは、皆さんにとっての最高の一杯と出会うこと。
どうぞ、珈琲豆ましろの珈琲で、笑顔で幸せなひとときをお過ごしください。そして、この街を感じてください。